『「権力」を握る人の法則』
スタンフォード大学ビジネススクール教授である著者ジェフリー・フェファーが2011年に執筆した本書。著者が長年の研究をもとに明らかにした、権力を握るための資質や具体的な方法など、権力闘争で勝ち残るためのあらゆる技術がまとめられています。
『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者ジム・コリンズも推薦!
ビジネスマン必読の書です。
それでは、内容を見ていきましょう。
Wanhoの個人的評価
読みやすさ | ★★★★★ |
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新規性 | ★★★★★ |
有用性 | ★★★★★ |
おすすめ度 | ★★★★★ |
なぜ権力が必要か
権力や地位を手に入れ維持するのは、簡単なことではない。思慮深く、粘り強く、戦略的でなければならず、気を抜かず必要に応じて戦わなければならない。
では、なぜ権力志向になるべきなのか?
権力を手に入れるメリット
メリットは以下の通り。
- 長く、健康に人生を楽しめる
権力のない人は、職場環境を自分ではどうにもできないことに無力感を感じ、ストレスを募らせる。こうしたネガティブな感情は健康を蝕む恐れがある。一方で、事態を自分でどうにかできることは、健康と長寿につながる。 - 富を得る
言わずもがな、権力は富につながりやすい。 - 何かを成し遂げるためには必須
権力はリーダーシップの一部であり、職場のちょっとした改善であれ、それなりの権力が必要となる。
権力を持てば手にできるものを考えても、権力そのものの価値を考えても、権力はないよりある方が望ましい。
続いて、権力を手にする方法を学ぶにあたって立ちはだかる障害を紹介していきます。
権力を手に入れるまでの障害
世の中は不公平
ほとんどの人は、世の中は公正・公平にできていると考えたがる(公正世界仮説)。
世界が予測可能・理解可能であり「世の中は、良い人は報われ悪い人は罰されるようにできている」と考えている。
また、成功者を見ると「あの人は幸運に値するだけのことをしてきたに違いない」と、逆方向にも推論する。つまり、富や地位や権力を手にしているだけで、その人物の評価は高まる。
逆に不運な目にあった人に対しては「本人に何か原因があるはずだ」と考える。例えば、あんな格好で夜で歩いたから襲われたのだ、と考える。
人は、成功者があまり褒められない手段で成功したとしても、原因を成功者の人格や努力に求め、成功を正当化しようとする。このように、『公正世界仮説』は人間の認識を歪めており、私たちは「世の中は公正である」と考えるのをやめる必要がある。
これにより、状況を合理的に認識し、多くを学び、注意深く行動することができる。
リーダーのお手本を鵜呑みにしない
自分のキャリアをお手本として売り込む人の多くが、トップに上り詰めるまでに経てきた抗争や駆け引きに触れないか、綺麗事でごまかしている。また、良いところばかりが強調され、悪しき行動は伏せられている。
特に、偉大な成功者は自己表現に長けており、聴衆が聞きたがっていることを察知して話す技を身に付け、誠実な印象を与える術を心得ている。場合によっては、歴史を都合よく書き換えることもできる。
権力を獲得し維持するためには、良いイメージを持たせることが効果的であり、そのために自分を名経営者として位置づける必要がある。要するに、偉大な成功者からのアドバイスを鵜呑みにするのはやめた方がよいということ。
出世に対する間違った認識と昇進のコツ
仕事ができても昇進できない?
多くの調査で、仕事の実績はさほど昇進に大きな意味を持たないことが明らかになっている。一方、学歴や人種、性別など様々な要素が昇進と関係づけられることが確認されている。
突出した仕事ぶりは昇進につながらないどころか邪魔になることさえある。例えば、上司が有能な人物を失いたくないと考え、他部署への放出を阻止するなど。また、今の仕事に対しては有能でも、より高い地位の仕事には向かないと考える可能性がある。
それでは何が必要なのでしょうか?
自分の存在を気づかせる
権力を持つ人は自分のことで忙しく、部下の仕事ぶりにあまり注意を払っていないことが多い。したがって、しかるべき評価を得るために、まずは「自分が何者でどんな仕事をしているのか」を気づいてもらう必要がある。
最も良いのは『上司と話すこと』である。人は、他の条件が同じであれば慣れ親しんでいるものを好む傾向(単純接触効果)があり、これを利用する。
日本では「出る杭は打たれる」というが、いくら良い仕事をしていても目につかない人は認めてもらえない。
自分に有利な評価基準にする
あらゆる評価基準において突出するのは不可能だが、自分の強みが評価されるよう働きかけることは可能。
評価基準を全面的に自分に有利にすることができなくても、自分の強みを強調し、競争相手より優位な立場に持ち込むことは十分に可能である。
また、上司が気にすることを気にする必要がある。上司が重視することと自身が大切と考えることとは必ずしも一致しないため、上司が「何を重視しているのか」を上司に直接聞くことが重要。
「仕事で重視するのはどんなことか」「自分に何を期待しているか」など質問をする。また、アドバイスを求めたり、力を貸してもらうことでよい関係点作りができる。
昇進のコツ
いくら上昇志向が強かろうと、またどれほど仕事ができようと、階層型組織の場合にはそれだけでは役に立たない。自分を引き上げるのも、行く手を阻むのも、組織階層で上位にいて人事権を持つ人間である。
したがって、大事なのは上の人間が昇進を望むように持っていくこと。そのためには、仕事で成果を上げるだけでなく、その仕事をしたのが自分であることを知らせ、存在を覚えてもらうこと、さらに好感を持ってもらうことも必要である。
権力を手にした人の共通点
限られたリソース(時間やエネルギー)の中では、権力を手に入れるために最も重要なものの開発に集中することが望ましい。
以下では、著者による長年の研究によって導き出された「権力獲得に結びつく重要な資質」を7つ紹介する。
権力を手にするための7つの資質
①決意
言わずもがな、何事も大成するためには努力、勤勉さ、根気が必要。そして努力を続け、必要とあらば犠牲を払うためには強い意志が欠かせない。また大きな組織に入ると、腹の立つことや不満が溜まることもあり、やる気を削がれることも多々ある。
そんな状況でも、「必ずやり遂げる」という確固たる決意があれば、諦めたくなる気持ちや怒りを爆発させたい衝動を抑えることができる。
②エネルギー
エネルギーは、怒りや満足感と同様に「伝染する性質」を持つ。したがって、自分自身の活力は周囲の士気を上昇させる。
また、エネルギーと時間を集中投下すれば、何事も達成の可能性は高まる。
そして、上司はエネルギッシュに働く部下を昇進させることが多い。熱心に仕事に取り組むこと自体が重要であり、そうした熱意は組織への忠誠や献身の表れと見なされる。
③集中
1つの業種、または1つの企業に的を絞ってキャリアを形成すること。1つのものに専念すれば知識が深まり人脈も築ける。また、1つの職務やスキルに的を絞って全力投球するやり方も有効である。
多くの調査では、天才と呼ばれる人でさえ、卓越した業績を残すには膨大な準備期間を必要とすることがわかっている。その膨大な時間を確保するためには、1つのスキルに狙いを定めて熟達を目指す方が効率的である。
職務の中で最も重要なもの、つまり目標達成に欠かせない業務に集中することで、目標を達成すると同時に、自分の能力を周囲に印象づけることができる。
④自己省察
内省や省察なくして学習や成長は不可能である。自己省察は自身の中で何度も経験を繰り返すこととなり、この習慣は「実際に経験を積むこと」に相当する。
また、同時に精神を集中し、文章を書き、熟考する訓練にもなる。
⑤自信
あまり面識のない人と仕事をする場合、相手は自分のことを信頼に足る人物かどうか見極めようとする。その際に相手が注目するのは、外に現れる行動や態度である。
自信のある態度を示し、それに見合う知識を備えていれば、影響力を獲得することができる。自分に自信がなく、しっかり自己主張ができないと、給与だけでなく何事でも不利になりやすい。
⑥共感力
交渉はゼロサムゲームではなく、互いに譲歩し合うことによって、双方に満足のいく結果・Win-Winの関係に到達することが可能である。ただしそのためには、相手の立場を理解する必要がある。
相手の視点で物事を見て、「ギブ&テイク」の要領で交渉に臨む必要がある。
⑦闘争心
人は基本的に争いを避けようとする。
面倒な状況や厄介な相手はできるだけ当たらず障らずで済まそうとし、衝突して嫌な思いをするのは避けたい一心で簡単に譲歩し、相手の無理な要求を受け入れてしまう。
裏を返せば、手強い相手にも堂々と渡り合えるなら大半の人より優位に立つことができる。
素直な物言いや押しの強い姿勢、時には挑戦的な態度をとることも必要。
まとめ
以上、権力獲得に結びつく7つの資質について見てきました。
- 決意
- エネルギー
- 集中
- 自己省察
- 自信
- 共感力
- 闘争心
自分が持つリソースをかけるべき重要な資質が理解できたら、自らを変える努力をしていくことです。著者曰く、障害となるのは
- 自分を変えるのは可能だと信じること
- 自分自身を客観視し、長所短所含めて理解すること
です!
都合のいい情報ばかりに目を向けず、自分の資質を開発することにリソースを集中投下しましょう。
続いては、「これらの資質を発揮するにはどこから始めるのかベストなのか?」について見ていきたいと思います。
権力を手に入れる方法
ここでは、具体的な『権力の獲得方法』について見ていきます。
著者は本書の冒頭で「ほとんどの人にとって権力や地位を手に入れることは可能」と述べています。仕事の実績は昇進に大きな意味を持たないとなると、どんな方法があるのでしょうか?
出る杭になれ
組織の中には出世競争や権力闘争など多くの競争が存在する。競争に勝てるかどうかは仕事の能力だけでなく、上司の後押しを得られるかどうかに大きく左右される。
この強力なサポートを得るには、冒頭で述べた通り、自分の存在を上司に気づいてもらわなければならない。要するに、私たちは群れの中で目立つ必要がある。
頼み事をする
人は、断られることにより自尊心を傷つけられるのを避けるため、できるだけ他人に頼まずに済まそうとする。また、頼みに応じてくれる可能性を自分の物差しで判断しているためである。
しかし、ほとんどの人は、頼まれた相手がOKする確率を過小評価している。これは頼み事をする人は、相手が「イエス」と言うときのコストばかりを考えがちで、「ノー」と言うコストに注意を払っていないためである。
相手の頼みを断るのは「良き隣人であれ」と言う社会の暗黙の了解に背くことになってしまう。人は他人から度量の広い人間だと思われたい。また、面と向かって断るのは気まずいもの。そのため、頼み事は少々大胆でも案外うまくいく。
多くの人は子供の頃から親に「人には親切にしなさい」と言われて育ち、何か頼まれたら引き受けるのが当たり前となっている。さらに、頼み事を引き受けてあげれば相手に貸しを作ることになるので立場が強くなる。
また、助言や協力を求められると、それができると評価され賞賛されたと感じる。他人から助けを求められることは自尊心をくすぐり、自己肯定感を強める。
他人があなたをどう思うかなどあまり気にせず、欲しいものや必要なものはとりあえず頼んでみること。
ルールを疑う
残念ながら、ルールは作った人に有利にできている。そしてルールを作るのは成功者であり、権力を握っている人たち。
マルコム・グラッドウェルの調査によると、ルールに則った戦い、すなわち定石通りの戦いでは、すでに力を持っている側が有利であることが示された。これに対して、常識破りの戦法や奇襲作戦をとれば、勝ち目の少ない側が大勝利を収めることが大いにあり得る。
権力を掌握するためには、常識やルールを疑ってかかる方が良い。
愛される < 恐れられる
ある調査によると、他人を評価するときには「いい人かどうか」と「できる人かどうか」と言う2つの尺度が用いられることがわかった。できる人とみなされると、タフな人間だという印象を与えられる。
一方で、いい人はあたたかくて親切と認識されているものの、同時に気が弱く頭が悪いという認識を伴いがちであることが判明した。そのため、地位と権力を維持する上では、愛されるより恐れられるほうが得策である。
人脈をつくる
人脈形成はキャリア形成にとっては極めて重要。また、人脈を形成し、維持する能力は誰でも身に付けることができる。
一般に、ネットワーク力(人脈をつくる力)のある人の人事評価が高いことは多くの研究で裏付けられている。また、ある調査では、幅広い人脈を持つ人は仕事満足度、給与、給与の伸び率がいずれも高い傾向にあることが明らかとなった。
ネットワーク力のある人は多くの人と知り合うだけでなくマメに連絡をとっている。そのため誰かがアドバイスを欲しい時、パートナーを探すとき、空きポストができたときに頼られることが多い。
ネットワーク力は前述した「目立つ」と言う点でも、競争に有利に働く。幅広い人脈を持つことは、多くの相手の記憶に残っているということ。目立つ人は認められ、選ばれ、地位が高くなる。地位が上がれば知り合いは増え、ネットワークがさらに拡大する好循環が起きる。
人脈作りはそれなりの労力をかけなければならない。まずは知り合いになりたい人、やっておくべき人、コネを作っておきたい組織のリストを作成する。このリストに沿って人脈を広げ、できるだけ多様な人と知り合う方法を考える。
陥りやすい落とし穴の1つは、同じタイプの人とばかり接してしまうこと。ネットワークを広げるためには未開の地を開拓しなければいけない。
有効なネットワークを築く
最も望ましいネットワーク戦略は、できるだけ異なる集団に属する多種多様な人と知り合うこと。ただし深く知り合う必要はないし、強い結びつきを育む必要もない。だからといって、そのようなネットワークが偽物の脆い関係だというわけでもない。
社会的な紐帯には、強い密着性は必要ない。そのため、あまり時間がなくても有効なネットワークを作ることが可能。『広く、浅く、多様に』を心がけると良い。
強い紐帯の間柄では距離が近すぎるため、行動範囲が重なりやすく、同じような情報しか持ち合わせていない。
社会的地位というものは比較的安定しているので、上がるのは難しいが、一旦上がってしまえば簡単に下がらないと言う特徴がある。そのため、時間やエネルギーをさほど使わなくても地位を維持することは可能である。
人間関係の中心に位置する
幅広いネットワークを持っていても、それだけで影響力を手にできるわけではない。自分自身がネットワークのどこに位置づけられるかが問題である。
重要なのは中心にいること。中心にいる人は情報を入手しやすい、評価が高まる、昇進しやすいなど、多くのメリットがある。
情報も連絡も、全て自分を経由するようなネットワークを持っていれば、影響力は極めて大きくなる。情報の流れをコントロールできること自体が影響力を形成する上、周辺にいる人は中心にいる人物を尊重する。
自分がネットワークの中心にいるかどうかは、何か起きたときに助けを求めてくる人がどれだけいるか、あるいは助けてもらうようアドバイスする人がどれだけいるかを調べてみればわかる。
権力を印象づける
「どのように行動するか」「どのように話すか」次第で、私たちは強さを演出することもできれば、弱い人間に見られてしまうこともある。話し方や振る舞いや外見によって力を誇示できるかどうかは、面接や交渉に至るまであらゆる場面でものを言う。
このような場面をうまく切り抜けるためには、力強く自信ありげにふるまうコツを身に付ける必要があるという。コツは以下の通り。
- たとえ演技で自信があるようにふるまっていると、時が経つうちに演技が身に付いてきて、実際に自信を持つようになる。考えが行動に感化されることは多くの研究で確かめられている。
- 感情は周囲に影響を及ぼす。自信や満足感といった感情は伝染する。例えば、道を笑顔で歩いていたらすれ違う人々も笑顔で応える。
- 感情も行動も自己増殖的な性質を持つ。相手に笑顔で接し、相手からも笑顔が返ってきたら、自分自身はもっと嬉しい気分になる。人間同士の反応にはこのように再帰的な性質があり、一度作られたムードは安定して続きやすい。
次は具体的なふるまいについて見ていきます。
動作に気をつかう
ある調査によると、背の高い人の方が報酬が高く、高い地位を占めやすいことがわかっている。また、肉体的な魅力が高報酬につながりやすいと言うデータもある。
しかし、外見以上に大事なのは立ちふるまいである。人は緊張している時、体が縮こまり背中を丸めるなど防御の姿勢を取りやすい。そういう時こそ背中をまっすぐにして立ち、胸を反り気味にし、骨盤を広げるようにするだけで威嚇的に見える。
このように動作によっても権力や決意を表すことができる。長く曲線的な動作ではなく、短く直線的な動作を心がけると良い。また、目をまっすぐに見て話せば、力強さだけでなく正直で素直な印象を与えることができる。
説得力のある言葉で話す
- 間を取る
間を取ることによって聴衆に強い印象を与え、賛同を促し、場合によっては拍手を誘導することができる。 - 論点を箇条書きにする
3項目程度が望ましい。例えば「申し上げたいことが3点あります。第一に...」のように話せば、あらかじめ準備し論点を整理してきたこと、問題を多角的に検討してきたことを聞き手に示す効果がある。 - 下書きやメモを使わない
特にスピーチやプレゼンで原稿を見ずに話せば、テーマを熟知しており即興で話しているとの印象を与えることができる。
話上手になる唯一の方法は経験を積むこと。会社のプレゼンテーションやコミュニティの集まりなど、人前で話す機会は積極的に活用する。
第一印象を良くする
第一印象は最初の数秒で決まる。印象は、事前情報や過去の実績に加えて、その時その場所の表情、ふるまい、声、外見によって形成される。また、数秒で決まった第一印象は後々まで維持される。
第一印象が長続きする現象は4つのプロセスで説明できる。
- 時間の経過に伴う注意力の低下
多くの人は、第一印象の決定後は気が緩み、後から受ける印象に前ほど注意を払わない。 - 情報の選択的取捨
第一印象が定まってしまうと、それと一致しない情報を無視しがちになる。これにより、第一印象と一致しない情報は無視して、一致する情報のみを偏重する傾向がある。 - 第一印象の実現行動
人は自分が抱いた第一印象が正しくなるような行動を自ら取る。ある調査では、相手を優秀だと思っている人は、相手の得意分野に関する質問をしたり、能力を発揮する機会を与えたりする傾向があることがわかっている。 - 偏向的な同化作用
人は後から受け取る情報を第一印象と一致するようにねじ曲げて解釈する傾向がある。
要するに、権力を持つことを相手に印象付けるには、外見や自信のあるふるまいが大事。自分に対する相手の印象は最初の数秒で決まり、その印象は長く維持されることから、特に初対面の人と接する際には、良い第一印象を与えられるように行動することが必要ということ。
代償と転落
ここまでは権力を持つことのメリットや具体的な方法について見てきましたが、権力は手に入れるのも維持するのもそれなりのコストを伴います。
ここでは輝かしい成功の裏にある、影の部分に注目していきます。
「権力」の代償
監視される
権力を持つと、一挙手一投足が注目されることとなり、仕事が非常にやりにくくなる。
一般的には共同作業者がいると、それ自体が刺激となって1人の時よりも各人の作業量が増加する(社会的促進効果)。これにより、ある点までは刺激がうまく働いてプラスになるが、それを超えると緊張が大きくなって生産性や判断力が落ちる。特に、複雑な知的作業には、この効果は基本的にマイナスに作用する。
もう1つのマイナス要素は、仕事に集中できなくなること。世間の目が注がれる立場になれば、イメージアップに時間とリソースを取られることになり、どうしても本業に注ぐ時間が減ってしまう。
また、体裁を気にし失敗を恐れるあまり、リスクを取らず安全な道を選びがちになる。
時間の自由を失う
社会学者のジェームズ・マーチ曰く「権力か自由のどちらかを手にすることができるが、両方を手にすることはできない」。CEOや社長といった人たちは、過密スケジュールで長時間働きづめになり、次第にエネルギーは失われ、本業での重要課題や予想外の事態に対応できなくなる。
リソースが枯渇する
高い地位を目指すのもそれを維持するのも、多くの時間とエネルギーを必要とする。権力を手に入れるために時間を使ったら、その分他のことができなくなる。
趣味やスポーツなど自分の楽しみ、大切な人と過ごす時間を犠牲にしなければならない。
人間不信になる
地位が上がり権力が強大になるほど、その地位と権力を狙う人は増える。したがって、権力を持つ人は、「誰が信用できるか」という切実な疑問を持ち続けることとなる。
権力者の失脚を願い、実際にそれを画策する人もいる。また、出世のために媚びへつらう人も現れる。
権力を持ったら「間違いなく信用できる人物かつ自分の後任になる可能性のない人」以外は、信用しすぎてはならない。
転落しないために
もし権力を手に入れても、それを維持できる保証は何もない。アメリカでは年々離職率が増加しており1995年から2006年の間ではCEOの更迭または辞任の件数は、全世界で318%増加している。
権力を失う理由は様々だが、共通の要素はいくつかある。その要素について見ていきましょう。
自信過剰になる、油断する
権力者の周りには気に入られようとする人が集まり、彼らは権力者の命令通りに動く。権力者は全てが自分の望み通りになることに慣れ、特別扱いされることを当然と思うようになる。初めのうちは、これらは地位のおかげと自覚しているが、時が経つにつれてその意識が薄れていく。
それによって、権力を手にした人には「欲しいものをなんとしても手に入れようとする強引な行動」が現れ、さらには「自分だけは規則を破っても良い」と考えるようになる。
多くの研究が「大きな権力を持つようになると自信過剰になり、油断し、物の見方が硬直的になり、他人の意見を無視するようになる」と指摘する。そして、周囲の人間は全て自分の欲望を実現する手段だとみなし始める。
自信過剰になることを防ぐ最善の方法は、自分を冷静に見つめること。自分自身をよくわかっていなかったら、いずれ自分で自分をコントロールできなくなる。権力を持つようになってから自分の振る舞いがどう変わったか、しっかりと省みられる人は長く権力を維持できる。
簡単に信頼する
自信過剰になると、他人の言葉を信用し、彼らの忠誠を簡単に信じてしまう。他人の意図を疑わず警戒心を解いてしまうと敵はその隙を狙ってくる。
重要なのは相手を見極め安易に信用しないこと。相手を見分ける1つの手段は、言葉ではなく行動に注目すること。格言にもある通り「行動は言葉よりも雄弁」である。
自制心を失う
組織のトップは激務であり、気の進まない役回りも引き受けなければならない。例えば、冠婚葬祭への列席や社交場の付き合いなど。その結果、部下に対して感情を爆発させたりすることになる。
権力を持つと、自分の言動に慎重でなくなり、他人がどう思うかよりも自分の野心に集中しがちになる。
感想
組織には政治的駆け引きや権力闘争がつきものです。とすると、どのようにふるまうべきかを学び、それらを日常的に実践していけば組織内で成功に近づくことができます。
本書にあるように残念ながら人生は公平ではないし、不満を言っても始まりません。「そのうち状況は好転するだろう」と考えるのではなく、自分をよりよい場所に引き上げるのは自分しかいないと考え行動するべきです。
また、権力を握るための術を知っていると、彼らの影響力から逃れることもできると思います。本書から学んだことをどう活かすかは人それぞれですが、「出世したい人」はもちろんのこと「社内政治に巻き込まれたくない」と思う人にも役立つ一冊です!
長くなりましたが、気になった方はぜひ一読ください。