『ストレッチ -少ないリソースで思わぬ成果を出す方法- 』
ジョージタウン大学準教授の著者カル・ニューポートが2019年に執筆した本書。MITで博士号を取得後に開設したブログ「Study Hacks」では、学業や仕事の生産性を上げ充実した生活を送るためのアドバイスしており、このブログは年間300万アクセスを超えます。
著者自身もデジタル・ミニマリズムを実践しており、本書では『スマホとSNSを手放して時間や集中力、幸福感を一気に手に入れる最強メソッド』を学ぶことができます。
- Amazonベストブック2019(ビジネス&リーダーシップ部門
- ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー
それでは、内容を見ていきましょう。
個人的評価
読みやすさ | ★★★★★ |
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新規性 | ★★★★★ |
有用性 | ★★★★★ |
おすすめ度 | ★★★★★ |
わずかな努力で成功を収める人がいる一方で、たくさん努力をしても失敗する人がいるのはなぜか?
すでに持っているものを使って、充実した人生を実現することができないのか?
本書はこれらの疑問に答えるべく、10年に及ぶ研究を行ってきた著者が考案した『ストレッチ』という考え方やスキルについて述べたものです。
今では社会通念となっている「成果を上げるには資源(リソース)が必要」という考え方に疑問を呈し、困難な状況下で臨機応変に解決策を見いだす能力について言及しており、恵まれない環境でも成果は出せる!と思えるような、とてもワクワクする内容です。
あの『ビジョナリー・カンパニー』シリーズのジム・コリンズ、『GIVE & TAKE』のアダム・グラントなどの著名作家も絶賛のスコット・ソネンシェインによる衝撃のデビュー作です。
それでは、さっそく内容に移っていきましょう。
ストレッチとは?
『ストレッチ』とは、多くのリソースを望むのではなく、手持ちのリソースの可能性を受け入れ、それを行動の手がかりにする考え方やスキルを指す。
多くの場合、リソースの使い方やリソースに対する考え方が、仕事上の成功、個人的な満足、組織のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。ところが私たちの多くは、「リソース獲得の重要性を過大評価する一方で、手持ちのリソースを活用する自分自身の能力を過小評価しすぎる」と言う問題を抱えている。これを正すため、リソースを最大限活用して大きな成果を上げ、達成感を得る『ストレッチ』の極意を習得するのが本書の目的である。
本書では、ストレッチの実践家を『ストレッチャー』と呼ぶ一方で、絶えず何かを追い求める人を『チェイサー』と呼ぶ。チェイサーにとって大事なのはリソースの獲得であり、手持ちのリソースの活用には目もくれない。大抵の人は、何をするにもリソースはたくさんある方が良いと考える。
チェイサー:「豊富なリソース=優れた成果」
ストレッチャー:「リソースの優れた活用=優れた成果」
なぜリソースを追い求めてしまうのか?
以下、チェイサーとなってしまう「4つの要因」です。
上方社会比較
人は富や知力、地位などについて他者と比べることで自己を知りたがる。指標となるのは簡単に測定可能な車や家の広さなどで、自分より優れている人と比較する傾向がある。
この比較は、創意工夫によって達成できるはずの多くの成果を見失わせるが、一方で、自分の立ち位置を知る助けになるため止めるのが困難である。
ある調査では、銀メダリストは銅メダリストよりも幸福度が低いことがわかった。銀メダリストは金メダリスト(自分より優れた人)と比較して自分の成績を卑下する傾向が強くなる。対照的に、銅メダリストは自分の成果(メダルの獲得)を強調する傾向があった。
また別の調査では、Facebookの利用時間が長いほど、被験者の幸福度や生活満足度が低かった。これは周りの人々の充実した生活を見ている影響と考えられる。
機能的固着
リソースに対する見方が固定化してしまうこと。チェイサーは思考の柔軟性に欠けており、リソースの用途は特定のものに限られていると思い込んでいる。
通常、人は歳をとるにつれて社会的慣習に絡め取られ、何か道具があっても一般的な用途以外の使い道を思いつかなくなることが知られている。そのため子供の方が柔軟な考えを思いつく場合もある。
リソースの見方が固定化することで、手持ちでは限りがあるためもっとリソースを増やさなければ、と考えがちになる。
無分別な収集
具体的な目的がないのに、集めること自体が目的化してしまうこと。リソースの収集に固執し、必要以上にリソースを集めようとする。
これを防ぐには、目的をしっかり自覚する必要がある。
リソースの浪費
人や資金などのリソースが豊富だと、相応の理由がなくてもそれを使わなければならなくなる。すると、不要な人材を雇い、広大かつ高価なオフィススペースを借りて、むやみやたらにプロジェクトを立ち上げたり、うまくいっていないプロジェクトを続けたりしてしまう。またリソースが多すぎると、人は現状に満足してしまう。
リソースは建設的に利用するよりも獲得する方が簡単である。チェイサーはリソースの獲得自体にこだわりすぎ、それが何の役に立つか見えなくなる傾向にある。
ストレッチャーになるには
以下、ストレッチャーになるための「4つの要素」です。
心理的オーナーシップ
周囲の環境をコントロールできる、個性を表現できる、一国一城の主になれると言う充足感を持つこと。これを備えた人は、たとえリソースを所有していなくても、それが自分のものだと言う当事者意識を持つことができ、手持ちのリソースを幅広く活用できるようになる。
人は当事者意識があるときの方が仕事に対する満足度が高い。実際にオーナーではなくても、オーナーのように行動することにより満足度が上がる。
制約の受け入れ
人はリソースが豊かだと、それを見たままに受け止め、従来のままのやり方で利用するが、リソースが乏しいときは、従来の方法に囚われないで自由に発想するようになる。つまり、問題や課題や機会に直面したときには、制約があった方が既存の資源を最大限活用しやすくなる。機能的固着に対照的な考え方である。
人は本能的に最も楽な道を歩み、ありきたりな考え方に頼ることで、精神的エネルギーを節約しようとする。例えば、画家のクロード・モネは明暗のコントラストを排除し、具像画とはあえて距離を置くことで印象派の確立を可能にした。
また新商品の開発には予算を設定した方が創意工夫が発揮され、好結果につながるという研究もある。
質素倹約
ビジネスを良くしない無駄なことにリソースをかけないこと。極端な倹約家になる必要はなく、重要なのは考え方を変えること。質素な人は目先の楽しみよりも長期的な目標を重視する。
質素な人は次々とものを買う代わりに、手持ちのリソースを再利用する。慣習に囚われず、チェイシングにつながる社会的比較の影響を受けにくい傾向がある。
あらゆるものに価値を見い出す
アクションを通じてリソースに価値を付加すること。有形か無形かを問わず、どんなものにも大抵リソースとしての可能性があるが、それが一定の価値を生むにはアクションが必要になる。
リソースは外側からやってくるのではなく、私たち自身が創造し形作るのである。
例えば、ある人は農家から見た目が悪くて出荷できない作物を安く買い取り、その果物や野菜を高級ジャムの素材として利用した。ゴミを宝に変えたのである。
ものの見方を変える
これまで「チェイサーでいることの弊害」、そして「ストレッチャーになることのメリット」を紹介してきましたが、続いては『ストレッチャーになる方法』について見ていきたいと思います。ここからが本題ですね!
「ストレッチ」とは、限られた手持ちのリソースを受け入れ、それを行動の手がかりにし有効活用する考え方やスキル、そしてワークスタイルのこと。
どのように考え方や行動を変えていけばよいのでしょうか?
アウトサイダーになれ
ここでいうアウトサイダーとは、幅広い知識を持つ部外者のこと。経験の幅があるアウトサイダーは、いわゆるその道の専門家より問題解決に秀でている。
人は医者や弁護士などの専門家に多大な信頼を寄せるが、彼らが常にベストな回答を与えてくれるとは限らない。そして、例えば医者が誤診をしたとしても、専門家の意見ゆえに人々は間違いに気づかない。
ある調査では、政治や経済成長について専門家の予測を追跡したところ、専門家の的中確率は一般人と同レベルであった。中でも予測精度が高かったのは、小さな事柄をたくさん知っていて、複眼的に結論を導く人(アウトサイダー)であった。
複雑な課題に向き合うときには、1つのことを掘り下げる専門家より、幅広い知識を持っている方が有利である。専門家は認知的に凝り固まった状態になり、慣例から離れた方法でリソースを活用できない。
また専門知識が増えるほど、すでに身に付けたやり方に頼るようになる(機能的固着)。ここでのアウトサイダーとは、組織に入ったばかりの新人や他分野のプロフェッショナルなど。
多様な経験を積めばリソースについてより広い視野で考えることができ、問題に取り組むアプローチの幅を広がる。一方で、高い専門性が求められる現在では、人々はどんどん狭い範囲で知識を先鋭化させている。私たちは『深くかつ多様な経験』を目指す必要がある。重要なのは、いつでも部外者の視点を持つこと。
アウトサイダーになるには
人は経験への開放性(好奇心)を持つことで、自分の小さな世界を超えた多様な経験を積むことができ、発想が豊かになる。自分の小さな世界から一時的に抜け出そうとするなら、専門外の分野に関する本を読む、趣味を楽しむ、様々な経歴の持ち主と話すなど、新しい行動を集中的に起こせばよい。
また自分がリーダーの場合は、周囲にアウトサイダーを確保することが重要。人は自分に似た人をそばに置きたがるため、意識的に多様な経験を持つ人と個人的、あるいは仕事上の関係を築くことがポイントとなる。
とにかく行動!
人は仕事上の成功や個人的な成功を計画のおかげと考えがちだが、実は大抵の場合、成果の原因となるのは行動である。
計画は役立つのは間違いなく、現代生活で最も重要であると同時に、最も生活を縛る行為でもある。
計画を立てたおかげで成功したなどとよく語られるが、パフォーマンスの最大の決め手となるのは「何をするか?」であり、「何を計画するか?」ではない。
計画立案のデメリットは、計画に凝りすぎると行動ができなくなってしまうこと。そこそこの計画で充分なのに完璧な計画を作ろうとするため、計画立案は行動の妨げになりやすい。一般的に注意深く計画を立てれば、最善の結果が得られると考えられている。
確かに、時間や情報などのリソースがあるときは計画が効果を発揮する。ただし、世の中には変数(ライバルの動向、転職先の人間関係など)も多い。それらを考慮して不確かな仮説を立てるとすると、時間がかかる上に行動が遅れる。行動が遅れると、状況がすでに変わってることもある。ある研究では、計画立案とパフォーマンスの間にはわずかな相関関係しか確認されなかった。
ある研究で次のことがわかっている。
『行動重視』の社員は、仕事そのものに刺激を受け、報酬をあまり気にしない。単純に仕事を楽しみ、最善の道を見極めなければならないというプレッシャーとは無縁。内発的動機付けに後押しされて目標へ向けた努力を重ね、目標達成の度合いも高い。
一方で、『計画重視』の社員は計算を重視し報酬にこだわる。ベストな選択を求めるせいで仕事の楽しみが減り、その結果努力をあまりせず目標を達成しにくい。計画を守ろうとするあまり常にプレッシャーを感じ、そもそもこれが最善の計画なのだろうか、と不安を感じる傾向にある。
計画立案の際には常にスピードを取るか、正確さを取るかと言うトレードオフの問題がついてまわる。迅速な行動が必要な時は、他にやり方がありそうでも目をつぶり、検討する情報を絞り込み、分析を止めて最適な方法をとる。
多くの人は計画を立てる時、行動を遅らせ、不確実な未来について考えを巡らしているが、ハイパフォーマーは行動から学習する。ある程度計画を立てたらまず行動、あとは行動しながら試行錯誤するのである。
未来が極めて不透明な中では計画は役に立たず、動き続けながら学ぶことが何より重要である。
感想
いかがでしたか?
ストレッチャーであることのメリットから具体的な方法まで見てきました。
チェイシングは際限なきリソースの供給に依存した生き方につながり、すでにある資源を有効活用する可能性を閉ざしてしまいます。短期的には一定の恩恵を得られるかもしれませんが、長期的には幸福感を得られず成功から遠ざかっていきます。
そして何かに挫折するとリソース不足のせいにし、身近にあるもののストレッチの機会を失う悪循環に陥るのです。
『ストレッチャー』になるのは簡単なことではありませんが、本書からは「こんな考え方があったんだ」「リソースを増やすことばかりに囚われていた」との気付きを得られます。
また、手元にあるリソースを活かすも殺すも自分次第と考えることで、世界の見え方も変わっていくと思います。
これまで何かと「リソース不足」を言い訳にしてきた人、本書から大切なことを学べるはずです。
おすすめですので、ぜひ一読ください。